いばらきの昔ばなし

ふるさとの昔ばなしシリーズ 東海村

村松虚空蔵尊の霊験木

今から三百年以上前の元禄二年(一六八九年)のことです。

陸奥国(現在の青森県の大部分と岩手県の一部)小佐井村の伊勢屋与兵衛という人の持ち船が村松(現在の東海村村松)沖にさしかかった時、運悪く台風にまきこまれてしまいました。

はげしい風雨と山のような大波、荒れ狂う海の上で、船員たちはなすすべもなく、海に投げ出されないよう必死で船にしがみつくばかりでした。

このままでは船が沈没してしまう、もう助からないと船員たちがあきらめかけた時、誰かが、「確かこの近くには村松の虚空蔵さんがあるはずだ。虚空蔵さんにおすがりしよう。」と言い出したのです。

村松山虚空蔵堂は、一般には「村松虚空蔵尊」、「村松の虚空蔵さん」の名で親しまれ、広く知られておりました。

船員たちは、めいめい自分の髪の毛を切ると、持っていたお金をその髪に通して結び、延命祈願*1を記した船板に打ち付けて海に流したのです。

「虚空蔵さん、お願いです。嵐を静めてください。私たちを助けてください。」船員たちは、ひたすら祈り続けました。

その願いが通じたのか、天候は次第に穏やかさを取り戻し、船員たちは全員無事村松の海岸に流れ着くことができたのです。

しばらくの後、船員たちが虚空蔵尊にお礼参りをしていると、村の漁師が浜に打ち上げられたという大きな木片をかついでやってきました。

それは船員たちが虚空蔵尊に願をかけて嵐の海に流した船板でした。

それ以来、木片は霊験木*2、願掛木などと呼ばれて祀られ、近くに多くの漁港があることから、海上安全や大漁を願う漁民からも今なお深い信仰を集めているということです。

この霊験木は、長さ九十一センチメートル、幅十・五センチメートル、厚さ四センチメートルほどの松の木片で、杉の木箱に収められ、木綿糸と頭髪でつないだ寛永通宝*3とともに寺宝として大切に保管されているそうです。

  1. *1 延命祈願
    延命は寿命を延ばすこと。祈願は望みがかなうよう神仏に祈り願うこと。
  2. *2 霊験
    信仰や善行に対して神仏が示すという不思議な利益。
  3. *3 寛永通宝
    表に寛永通宝の四文字を記した江戸時代の代表的銭貨。青銅・真鍮・鉄の三種があり、一枚一文にあたる一文銭のほか四文銭も発行。
参考資料
  • 「茨城の伝説」(今瀬文也・武田静澄共著)
    「東海村史 民俗編」(東海村)
    「東海村の昔話と伝説」(東海村教育委員会)
    「東海駅そのあたり」〈下〉(佐久間勇著)