いばらきの昔ばなし

ふるさとの昔ばなしシリーズ 高萩市

土岳の天狗

 高萩市の花貫渓谷の西方に標高六百メートルの土岳があります。

 むかし、この山には天狗*1が住んでおりました。天狗はほとんど人前に姿をあらわすことはないのですが、鳥曽根に住む炭焼きの「ゴアンマス殿」とは大の仲よしでした。

 というのも、ゴアンマス殿はいつも山仕事の合間に天狗と相撲をとって遊んでいたからです。天狗も喜んで、お礼に木の切り出しや力仕事を手伝ってくれるので、ゴアンマス殿も大助かりでした。

 ある日のこと、天狗が「ゴアンマス殿、四つ足*2と二足*3のものを食べなければ一生暮らしの面倒をみてやるよ。でもな、わしのことは絶対他人には話さないでくれ。」というのです。

 ゴアンマス殿はいくら考えても天狗のいう四つ足と二足の意味がわかりませんでした。そこで村人にその話をしてしまったのです。するとそれ以来、天狗はゴアンマス殿の所にあらわれなくなったということです。

 また、鳥曽根には「天狗の腰掛石」という話があります。天狗が夜明けとともに鳥曽根のある家にやって来て、庭石に腰を下ろし、「でんどん、でんどん。」と家の主の名前を呼んでは起きてくるのを待っているのです。

 天狗は目かくしをしたでんどんを背中に乗せると土岳の山頂まで飛んで行き、そこで毎日のように相撲をとって遊んでおりました。

 ある日、天狗はでんどんに「赤飯を一斗*4ほど炊いてここに持ってきてくれたら、一生遊んで暮らせるようにしてあげよう。」というのです。また、このことは絶対他人には洩らさないようにと強く念を押しました。

 ところが、でんどんはうれしさのあまり天狗との約束をすっかり忘れ、家に帰るとうっかり妻にその話をしてしまったのです。でも、妻はでんどんの話をまったく信用せず、取り合ってさえくれませんでした。

 その明くる朝、天狗がでんどんを呼ぶいつもの声は聞こえてきませんでした。それ以来、天狗は二度とその庭石に姿をあらわすことはなかったのです。

 その庭石は今でも「天狗の腰掛石」と呼び伝えられているのだそうです。

  1. *1 天狗
    深山に棲息するという想像上の怪物。人のかたちをし、山伏姿で鼻が高く、赤ら顔。翼があって神通力をもち、飛翔自在で、羽団扇をもつという。
  2. *2 四つ足
    4つ足の動物。獣類。けもの。
  3. *3 二足
    鳥類のこと。
  4. *4 斗
    尺貫法の容積の単位。1斗は10升。約18.039リットル。
参考資料
  • 「茨城の伝説」(今瀬文也・武田静澄共著)
  • 「高萩市史 下巻」・「高萩の昔話と伝説」(高萩市)