お灸をすえられた阿弥陀様(かすみがうら市)

むかし、東野寺(現在のかすみがうら市東野寺)の地福院というお寺に、瑞蓮というお坊さんが住んでおりました。
ある晩のこと、「ズイレン、ズイレン」と呼びながら戸を叩く者がいるので、戸を開けてみたのですが、外には誰もおりませんでした。
お坊さんは、しばらく考えておりましたが、やがて妙案*2が浮かびました。(そうだ、阿弥陀様には申し訳ないが、両方にお灸*3をすえてしまおう。)
ある晩のこと、「ズイレン、ズイレン」と呼びながら戸を叩く者がいるので、戸を開けてみたのですが、外には誰もおりませんでした。
それからというもの、毎晩、何者かが戸を叩きながら「ズイレン、ズイレン」と叫ぶので、気味が悪い上にうるさくてたまりません。
困り果てたお坊さんはある夜、今日こそいたずらの主を確かめようと心に決め、息をひそめて待っておりました。
すると、いつものように何者かが戸を叩きだしました。そっと近づいたお坊さんがガラリと戸を開けると、なんとそこにいたのは狸だったのです。
「こらーっ、このいたずら狸め。ゆるさんぞ。」 お坊さんは棒を持って必死に追いかけましたが、狸は捕まるどころか、境内をすばしこく逃げ回ると本堂に逃げ込んでしまいました。
そして、よりによって阿弥陀様*1の隣に、まったく同じ姿に化けてしまったのです。
これには、お坊さんもびっくり。どちらが本物の阿弥陀様か区別がつきません。
お坊さんは、しばらく考えておりましたが、やがて妙案*2が浮かびました。(そうだ、阿弥陀様には申し訳ないが、両方にお灸*3をすえてしまおう。)
さっそく、もぐさ*4に火を点じて様子をうかがっていると、にせものの方が痛さに耐えきれず、とうとう鼻をぴくぴくと動かしてしまったのです。
正体がばれ、取り押さえられた狸はもっと大きなお灸をすえられたため、それ以来、姿を見せなくなったということです。
*1 阿弥陀- 西方にある極楽世界を主宰する仏陀の名。阿弥陀仏。阿弥陀如来。
- *2 妙案
- すぐれた案。よい思いつき。
- *3 灸
- もぐさを肌の上に載せてこれに火を点じて焼き、その熱気で病気を治す療法。
- *4 もぐさ
- 燃え草の意。ヨモギの異称。ヨモギの葉を乾かして作った綿のようなもの。これに火を点じて灸治に用いる。
参考資料- 「千代田村の民俗」(千代田村教育委員会)
「千代田村の昔ばなし」(仲田安夫著)