糸操川のカッパ(下妻市)
川沿いの村に右近というたいそう親孝行な若者がおりました。
ある夕暮れ時のこと、右近はとなり村からの帰り道、橋の上で見かけたことのない美しい娘に出会い、一目で好きになってしまいました。
そこで、さっそく両親にその娘を嫁にしたいと相談しました。でも、両親は、突然どこのものともわからない娘と一緒になりたいといわれても首を縦に振るわけにはいかないと、許してくれませんでした。
ふだんは親のいうことを素直に聞く右近でしたが、今度ばかりは譲れないと親の反対を押し切ってその娘を嫁にしてしまいました。娘は顔かたちが美しいばかりでなく、気持ちもやさしく、その上働き者でしたので、反対していた親たちもやがて近所に自慢するようになりました。
ただ、この嫁さまには一つだけおかしなくせがありました。みんなが寝静まった真夜中にこっそりどこかへ出かけていき、夜明け前に戻ってくるのです。
それが毎日のように続くので、心配になった右近は、ある夜、嫁さまにきづかれぬよう、そっと後をつけました。
ところが、二人が出会った橋の上まで来ると嫁さまの姿がすっと消えて見えなくなってしまったのです。
次の夜、右近は、行き先を確かめたい一心から嫁さまの着物のすそに糸を結びつけました。嫁さまは、そんなしかけがしてあるとは知らず、いつものように家をぬけ出していったのです。
(今夜は、たとえ見失っても、糸を頼りにたどって行けば大丈夫だ。)
また橋の上で嫁さまの姿を見失った右近が、そろりそろりと糸をたぐっていくと、糸の先は水の流れでけずられて出来た川の洞穴*1に続いていたのです。
そっと近づいて中をのぞいてみた右近は驚きました。カッパ*2の母親が子どもに乳を飲ませているではありませんか。実は嫁さまは毛野川に住むカッパだったのです。
この話が広まるにつれ、いつしかこの川を糸繰川と呼ぶようになったのだそうです。
参考資料- 「下妻市史 別編(民俗)」(下妻市)
「茨城のむかし話」(茨城民俗学会編)