仏ノ山峠(笠間市)

笠間市片庭と栃木県茂木町小貫との境に仏ノ山峠があります。かつては笠間側から塩や乾物など、茂木側からは刻みタバコなどが馬で運ばれ、海と内陸を結ぶ峠*1としてたいせつな役割を果たしておりました。
また、雨引観音(桜川市)にお参りする人たちの参拝道でもありました。
むかし、このあたりは大変寂しい所で、追い剥ぎ*2が住み、峠を通る旅人を鉄砲で撃ち殺してお金や持ち物を奪い取っておりました。
また、雨引観音(桜川市)にお参りする人たちの参拝道でもありました。
むかし、このあたりは大変寂しい所で、追い剥ぎ*2が住み、峠を通る旅人を鉄砲で撃ち殺してお金や持ち物を奪い取っておりました。
その追い剥ぎを生業にしている男には娘が一人おりました。娘はとても心の優しい人でしたので、父親に人を殺めて金品を奪うような悪いことはやめてほしいと毎日のように頼んでおりました。
でも、まったく聞き入れてもらえず、ただ神仏に祈るばかりでした。
ある日、男がいつものように草むらに身をひそめ、旅人が通るのを待ちかまえていると、簑笠*3に身をつつんだ一人の旅人がやってきたのです。
(しめた。こいつは金目のものを持っていそうだ。) 男は一発でしとめようと慎重にねらい定めて引き金を引きました。
ズドーンという大きな音が峠にこだますると、その旅人は道端にバタリと倒れ込みました。
男は草むらから躍り出ると急いで旅人のもとに近寄っていきました。
そして、倒れている旅人の顔を見て驚きました。なんとそれは自分の娘だったのです。
男は娘のなきがらを抱いて大粒の涙を流しました。娘は自分の命と引きかえに父親に悪行*4をやめさせようとしたのです。
男はそれまでの悪行の数々を悔い、心を入れ替えて、自分が手にかけた旅人と娘の霊をなぐさめるために峠路の東西に二つのお堂を建て、念仏を唱えて暮らしたのだそうです。
仏ノ山峠を栃木県側に少し下ると、茅葺きの「朝日堂」と赤い屋根の「夕日堂」が道路をはさんで建っております。
*1 峠- 山の坂路を登りつめた所。山の上りから下りにかかる境。
- *2 追い剥ぎ
- 通行人をおどかして衣類や持ち物などを奪うこと。また、それをする者。
- *3 簑笠
- 簑と笠。または、簑を着て笠をかぶること。簑は、かや・すげなどを編んで作った雨具。
- *4 悪行
- わるい行い。悪事。不品行。
参考資料- 「茨城の伝説」(今瀬文也・武田静澄共著)
「いばらきのむかし話」(藤田稔編)
「茨城の史跡と伝説」(茨城新聞社編)
「角川日本地名大辞典 茨城県」(角川書店)