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腕を切られたいたずらカッパ(行方市)

むかし、芹沢(現 行方市・前 玉造町)のお殿様が府中からの帰り道、ある川岸にさしかかると、急に馬が動かなくなってしまいました。

不思議に思って後ろをふりむくと、何とカッパが馬のしっぽをつかんで川に引き込もうとしているのです。

「これが、この辺りでいたずらをしているというカッパか。こらしめてやる。」殿様は、刀を抜くと、カッパの腕を切り落としてしまいました。

すると、カッパは、いたずらしたことをあやまり、「片腕が無ければ、年老いた母を養うこともできません。どうかその腕を返して下さい。」と涙ながらに訴えるのです。

殿様が、この腕をどうするのかとカッパに聞くと、良い薬があるので接ぐことができるというのです。殿様は「馬鹿なことを申すでない。」とはねつけると、 その腕を城に持ち帰ってしまいました。

その夜のことです。殿様の枕元にカッパがあらわれ、「あの腕を返していただければ先祖伝来の手接ぎの妙薬のつくり方をお教えします。」というのです。 

殿様が薬の製法を教えてもらった代わりに腕を返すと、カッパは何度も礼を言って帰って行きました。

ところが、あくる日、殿様が馬で近くの川岸まで行ってみると、そこにカッパが死んでいるではありませんか。「私がカッパの話を信じてすぐに腕を返していれば、死なずにすんだかもしれない。すまないことをした。どうか、カッパよ、霊あらば川上に流れよ。」と合掌をして城にもどりました。

数日して、カッパの死体が川上にあたる与沢(現在の小美玉市与沢)の橋のたもとに流れつきました。そこで、殿様は、橋の近くに「手接明神」と命名した祠を建ててカッパの霊をなぐさめました。 

その後、現在の地、篠原明神の社地に移された(一五〇七年)手接神社には、手の病だけでなく流行病や日照りの時にもご利益があると、近隣の村々からたくさんの人々が訪れるようになったのだそうです。

また、カッパ秘伝の傷薬は、芹沢の殿様の家に代々伝えられ、そのおかげで多くの村人が救われたということです。

また、小美玉市川戸の植田家には、カッパ秘伝のトゲ抜きの薬にまつわる話も残されています。

 
*1 カッパ(河童)
顔は虎に似、くちばしはとがり、身に鱗や甲羅があり、頭上の凹み(皿)に水をたくわえた想像上の動物。水陸両方にすむ。
*2 接ぐ
つなぎ合わせる。
*3 妙薬
不思議なくらいによく効く薬。秘薬。
*4 合掌
仏を拝むときのしぐさ。両手のひらを顔や胸の前で合わせて拝む。
*5 日照り
日が照ること。長い間、雨が降らずに水が涸れること。かんばつ。
*6 秘伝
秘密にして容易に伝えない奥義。


参考資料
「小川町史 上巻」(小川町)
「ふるさとものがたり」(小川町教育委員会)
「玉造町の昔ばなし」(堤一郎著)
「茨城の伝説」(今瀬文也・武田静澄共著)
「茨城 ふるさとのむかし話」(藤田稔編)

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