ふるさとの昔ばなしシリーズ 笠間市

愛宕神社の奉納相撲

笠間市にある愛宕山は、桜の名所として、また、天狗*1伝説の山として知られています。

山頂には火伏せ(火災予防)の神様を祀る愛宕神社があり、その本殿裏手にある飯綱神社には、六角堂や十三天狗の祠*2があります。
 

愛宕山にはこの十三天狗にまつわる話のほか、天狗に関する多くの話が残っています。


むかし、愛宕山が岩間山と呼ばれていた頃、はじめは五人の天狗が棲んでいましたが、だんだんと数が増えて十二天狗になりました。


その後、母親孝行を果たすために厳しい修行を積んで天狗となったという狢内村(現在の八郷町狢内)の長楽寺のお坊さんが加わって十三天狗になったのだそうです。


また、ある年、愛宕山のお祭りで奉納相撲*3が行われたときのことです。近くの村々から力自慢の男たちが集まって来て広場は大にぎわい。


やがて十人勝ち抜き戦を迎えると奉納相撲はさらに盛り上がりを見せましたが、勝ち上がって来た強い者同士がぶつかるので、なかなか十人を勝ち抜ける者が出ませんでした。


そこへ毛むくじゃらの大男があらわれ、対戦相手を次々と投げ飛ばし、すぐにも十人抜きを達成してしまうほどの勢いでした。


だれもが優勝はこの男に決まりかと思ったとき、土俵に上がってきたのは、どう見てもあまり強そうではないお坊さんでした。


ところが、お坊さんは、身のこなし*4が軽く、土俵上をぴょんぴょんと飛びまわると、大男のスキをついてあっけなく投げ飛ばしてしまったのです。


(今のはまぐれだ。あの坊さんがそんなに強いわけはない。)

そう思った人たちが次々とお坊さんに向かっていきましたが、その強さは並外れていて、またたく間に十人が倒されてしまいました。


お坊さんは、賞品の米俵を軽々とかつぐと何事もなかったように帰って行ったのです。


それを見た人々は、「あのお坊さんは、ただもの*5ではない。天狗様に違いない。」とうわさし、恐れました。


このお坊さんの正体を見届けようと後をつけた男がいましたが、お坊さんの足は宙を飛ぶように速く、土師(笠間市土師)のあたりで見失ったということです。


 

*1 天狗
想像上の妖怪。深山に棲み、鼻が異様に高く、山伏姿をして空を自在に飛び、神秘的な力を持つと信じられている。
*2 祠
神を祭る小さな社。
*3 奉納相撲
神仏の祭礼のとき、社寺の境内で行われる相撲。
*4 こなし
体の動かし方。物腰。体・物の扱い方。
*5 ただもの
普通の人。平凡な人。


参考資料
「岩間町史」(岩間町)
「いわまの伝え話」(岩間町教育委員会)
「常陽藝文 一九九四/四月号」(財団法人常陽藝文センター)
「茨城町史・地誌編」(茨城町)