ふるさとの昔ばなしシリーズ 水戸市

六地蔵寺の大スギ

水戸市六反田町の六地蔵寺は、真言宗のお寺で安産・子育てにご利益があるとして知られています。

また、花の名所としても有名で、境内にあるシダレザクラ*1やソメイヨシノ*2の開花期には多くの参拝者でにぎわいます。


その中でもひときわ目を引くのは、樹齢百八十年といわれる水戸光圀公ゆかりのシダレザクラで、毎年見事な花を咲かせています。


六地蔵寺には、このシダレザクラとともに市の文化財に指定されているスギとイチョウの大木があります。今回は、高さ約三十六メートル、幹周り約七メートル、推定樹齢千百余年といわれるその大スギにまつわるお話です。


むかし、本堂も地蔵堂もまだ現在のように立派ではなかった頃、このあたりは何千本ものスギの木で覆われておりました。


ある時、信者の人たちが集まり、お寺をもっと立派に建て直そうということになりました。


また、寺を建てるにあたっては周りに豊富にあるスギの木を使おうということになったのです。


やがて、たくさんのスギの木が次々と伐り倒されていきました。そして、きこり*3が最後の一本を伐ろうとしたときです。どこからか、「火事だ。火事だぞー。」という声が聞こえてきたのです。


きこりはあたりを見回しましたが、それらしい様子はまったくありません。空耳かと、再び鋸*4を引こうとすると、また同じ声が聞こえてくるのです。


それをいく度か繰り返すうちに、きこりはふと自分の家が心配になりました。


(ひょっとして…)そう思うと、居ても立ってもいられず、きこりは鋸を投げ出し、自分の家のある那珂湊の方に向かって走り出しました。


やっとの思いで家に戻りましたが、きこりの家はすっかり焼け落ちて影も形もありませんでした。


(あのスギの木には、仏さまが宿っているにちがいない。きっと私に「伐らないでくれ。」といっていたのだ。) きこりは、それからというもの木を伐る仕事をぴたりとやめてしまいました。


そのようなことがあって、六地蔵寺の大スギは今でも境内に残っているのだそうです。



*1 シダレザクラ(枝垂れ桜)
エドヒガンの一変種。枝は細くて垂直に垂れ下がる。花は葉より前に開き淡紅色、単弁または重弁。樹齢は長く、高さ20メートルに及ぶものもある。
*2 ソメイヨシノ(染井吉野)
サクラの一種。オオシマザクラとエドヒガンの雑種とする説が有力。各地で最も普通に栽植。花は葉の出ぬ先に開き、つぼみは初め淡紅色で次第に白色に変わる。成長は早いが木の寿命は短い。
*3 きこり(樵・樵夫)
山林の樹木を伐採すること。また、それを職業とする人。
*4 鋸
薄い鋼板の縁にぎざぎざの歯を刻みつけ、木材・石材・金属などを切るのに用いる工具。


参考資料
「常澄の伝説とむかし話」(水戸市教育委員会)
「茨城の伝説」(今瀬文也・武田静澄共著)
「茨城の史跡と天然記念物」(山崎睦男・高根信和共著)