SERIES連載記事

納豆(那珂市)

むかし、額田村(現在の那珂市)に、たっつぁいという「ちくぬき」(ほらふき・うそつき)の名人がおりました。

たっつぁいのうわさは水戸の殿様まで届き、あるとき、お城に呼び出されることになりました。

たっつぁいは、殿様の御前でちくを披露するように言われると、「ちくの本を家から取ってきますので、馬を貸してください。」と申し出たのです。

でも、額田に行ったきりいつまでたっても戻って来ませんでした。家来が様子を見に行くと、たっつぁいは、なんとその馬を使って野良仕事*1をしていたのです。

「ちくに本(本当)は無い」・・・・・たっつぁいは、そう言って、とうとう殿様の馬をもらってしまいました。

ある日、たっつぁいは、その馬を引いて力仕事に出かけました。夏の暑い盛りだったので、青草だけでは馬がかわいそうと思い、大豆を煮て、わらづと*2に詰めて持っていきました。

やがて昼時になり、たっつぁいがにぎり飯を食べようと包みを開けると、暑さでくさりかけていました。

もしやと思い、今度はわらづとを開いてみると、こちらは糸を引いてベタベタになっておりました。

“これじゃ、馬に食わせられないな”と放り投げると、馬はその豆をわらづとごとむしゃむしゃと食べ始めたのです。

たっつぁいが「こらこら、腹をこわすからやめろ。」と止めるのですが、馬はたっつぁいの手についた豆までも食べようとするのです。

不思議に思い、匂いをかぐと、これがとても良い匂いなのです。試しに一口食べてみると、なかなかいい味ではありませんか。

後日、同じようにして作ったものを村人に食べさせると、うまいうまいと大好評なので、村のみんなに作り方を教えてやりました。

「ところで、これは何という名前にしようかね。」

「そうだな、わらづとに豆を納めて作るから、納豆*3っていうのはどうだ。」 

そんなやりとりがあって、その食べ物は納豆と名付けられたのだそうです。

*1 野良仕事

田畑に出てする耕作の仕事。
*2 わらづと
わらを束ねて物を包んだもの。
*3 納豆
蒸した大豆をわらづとなどに入れて適温中に置き、納豆菌を加え発酵させて作った食品。

参考資料

「常陸のたっつぁい噺」那珂町額田の民話(大録義行編)

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