金砂山の大柊(ひたちなか市)

ひたちなか市堀口の金砂神社には、茨城県の天然記念物に指定されている五本の大柊*1があります。
推定樹齢四百年から六百年といわれ、一番大きい木は高さ約十五メートル、幹周り約二.四メートル、他の木はそれより少し小振りです。
推定樹齢四百年から六百年といわれ、一番大きい木は高さ約十五メートル、幹周り約二.四メートル、他の木はそれより少し小振りです。
柊は、大きなものでも高さが四~八メートルくらいですから、これほどの大木がまとまってあるというのは大変珍しい例です。
その「金砂(山)の大柊」にまつわる言い伝えです。
元亀三年(一五七二年)、この村に住む敬神の心が深い五人の兄弟が、久慈の金砂神社*2を自分たちの村に分祀する(本社の霊を分けてまつる)ことにいたしました。
五人は、その記念にと自分たち兄弟と同じ数の五本の柊を寄進*3し、柊は境内に植えられることになったのです。
しばらくすると神社も完成し、分祀祭を行うことになりました。
祭礼当日、大勢の村人たちが集まり祭事を進めておりますと、突然、空が暗くなったかと思う間もなく、雷とともにはげしい雨が降り始めました。
すると、不思議なことに、天から黒雲に乗って五竜*4が下りてきたのです。
兄弟も村人も、雨に打たれながら呆然として立ちすくむしかありませんでした。
竜たちは、それぞれ五本の柊に下り立つと、じっとそこに留まっているのです。その様子はまるで分祀祭を見守っているかのようでした。
やがて村人たちは我に返り、祭事を続けることにしました。そして、分祀祭が無事終了したのを見届けると、竜たちはまた柊を伝って天に昇って行ったのだそうです。
現在この柊は、老化が進んだためか、特徴である鋭いトゲをもつ葉が少なく、多くが丸みをおびています。
でも、秋には老木の幹からは想像もできないほど可憐な白い小さな花をたくさんつけております。
*1 柊- モクセイ科の常緑小高木。高さ約4~8メートル。葉は皮質で光沢あり、縁には鋭いトゲになった切れ込みがある。秋に白色の小花を密生、佳香を発する。
- *2 久慈の金砂神社
- 常陸太田市、西金砂山の頂にある西金砂神社。祭神は大己貴命、少彦名命、国常立命。神社に伝わる縁起によると、806年に天台宗の宝珠上人が比叡山の日吉権現を分霊し創建したと伝えられる。
- *3 寄進
- 社寺などに金銭・物品などを寄付すること。
- *4 竜
- 想像上の動物。大蛇に似た体に、4本の足、2本の角とひげを持つ。雲を起こし雨を降らせ、また、淵にすみ、時に天に昇るという。縁起の良い動物とされる。
参考資料- 「勝田市史 民俗編」(勝田市)
「茨城の伝説」(今瀬文也・武田静澄共著)
「茨城の史跡と天然記念物」(山崎睦男・高根信和共著)