SERIES連載記事

七淵ヶ池(行方市)

むかし、ある旅人が七淵ヶ池(現在の行方市山田)の岸辺を通りかかると、美しい娘に声をかけられました。

「旅のお方、あなたはこれから手賀(現在の行方市手賀)の方にお出でになるのでしょうか。もしそうでしたら、この手紙を権太夫池のほとりにある家にお届けいただきたいのですが。」というのです。

「それならちょうど通り道だ。いいとも、届けてやろう。」 旅人は快く娘の頼みを聞き入れました。

しばらく進むと、こんどは白髪の老人に呼び止められました。

「そこの旅の人、あなたには死相*1があらわれている。それも間もなく命がなくなると出ている。途中何か変わったことはなかったかな。」と聞くのです。

「縁起*2でもない。別に具合の悪いところはないし、思い当たることなどありませんよ。」 

驚いた旅人がそう答えると、老人は「それはおかしい。よく思い出してみるがよい。」としつこく問いただしました。

「そういえば、少し前に美しい娘さんから手紙を届けてほしいと頼まれました。」と話すと、老人はその手紙のせいかもしれないといい、手紙の封を切りました。


すると、「お約束の者が見つかりました。どうぞこの者をお召しあがりください。」と書いてあったのです。

「この手紙は、七淵ヶ池の主*3のウナギ(大蛇ともいう)が、権太夫池の大蛇にあてたものだ。あなたは大蛇に呑まれるところだった。遠回りしてでも別の道を行きなさい。」 老人はそういうと旅人の前から姿を消してしまいました。

この時、旅人を助けたのは、稲荷様の化身*4であったといわれています。また、七淵ヶ池のウナギと権太夫池の大蛇は夫婦だったとも伝えられています。

*1 死相

死が近づいたときの顔の様子。
*2 縁起
運命の吉凶を示す前触れ。
*3 主
山または河などに古くからすんで霊力があるといわれる動物。
*4 化身
神仏が形を変えて人間としてこの世にあらわれること。

参考資料

  • 「北浦の昔ばなし」(小沼忠夫著)
    「玉造町の昔ばなし」(堤一郎著)

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