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清涼寺のいたずら狸(石岡市)

むかし、清涼寺(石岡市国府)の本堂北側は大竹やぶで、その中にある小さな池のあたりに古狸*1がすみついておりました。

この狸は、夜になると境内の杉の大木に登ってはお月様に化けたり、通りがかりの人に砂をかけたり、いたずらばかりしていたのです。

清涼寺の近くに長屋があり、そこに、鴉の鳴きまねがうまいので「鴉の長さん」と呼ばれる人のよさそうな男が住んでおりました。

ある晩のこと、何やら言いながら長さんの家の雨戸をしきりに叩く者があるのです。

耳を澄ますと、「鴉の長さん、鳴いてみな。鴉の鳴き声やってみな。」と聞こえます。

そこで、長さんは雨戸を開けてみたのですが、外には誰の姿も見当たりませんでした。

それからというもの同じことが毎晩続くので、さすがの長さんもたまりかねて近所の人たちに相談しました。

すると、「清涼寺の狸の仕業に違いない。この際だ。みっちり懲らしめてやろう。」ということになったのです。

それにはいぶり*2出すのが一番だというので、さっそく狸の穴をいぶしにかかりました。

やがてあたり一面煙だらけになりましたが、みんな煙たいのを我慢して狸がいぶり出されるのをじっと待っておりました。

すると突然、本堂の方から、「こらー。お前たち何をやっておる。本堂の中まで煙だらけじゃ。とっとと出ていけー。」と、和尚さんのものすごい怒鳴り声が聞こえてきたのです。

みんな、その剣幕*3にびっくり仰天。夢中でお寺から逃げ去りました。

それ以来、狸は姿を見せず、いたずらもなくなりました。

長さんたちは、ひょっとして、あの時の和尚さんは狸の最後の化け姿だったのではないかと噂したのだそうです。

*1 狸

イヌ科のほ乳類。尾が太く足は短い。体毛はふつう褐色。主に低山にすみ巣穴をもつ。昔から人間との関わりが深く、伝説・昔話では人を化かすとされる。土地により、アナグマと混同してムジナとよばれることが多い。
*2 いぶす
火を出さず、煙をたてて燃やす。煙をこもらせて煙たくする。
*3 剣幕
怒った恐ろしい顔つき・態度。

参考資料

「石岡市史 上巻」(石岡市)
「石岡市の昔ばなし」(仲田安夫著)

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