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食傷丸(那珂市)

むかし、下江戸村(現在の那珂市下江戸)の斎藤家(後に那珂家)に、香砂平胃散、香砂平胃丸(食傷丸)という家伝薬*1がありました。

いつのことかは不明ですが、下野国(現在の栃木県)から来て行き倒れ*2になった旅人を助けた時、そのお礼として薬の作り方を教えてもらったのだと言われています。
その食傷丸にまつわる話です。


今から四百年以上も前の秋のこと、斎藤家の作男*3が静神社にお参りした帰り道、くたびれて裏山の木陰で一眠りしておりました。


やがてガサガサという音で目を覚まし、草木が動く方に目をやると、何と大蛇がウサギに襲いかかろうとしているのです。


作男が息をひそめてじっと様子をうかがっていると、大蛇は、あっという間にウサギを呑み込んでしまいました。


そして、大きな腹を引きずるように近くの茂みに入ると、何やら草を食べ始めたのです。


すると、不思議なことに、大蛇の腹は見る見る元通りになりました。


(あの草には食べ物を消化する強い効き目があるらしい。) 


作男は、早速その草をたっぷり刈り取って家に持ち帰ると、乾燥させて大切にしまっておきました。


しばらくして、村の若者たちの大食い競争があった時のことです。


作男の食べっぷりは群を抜いてすさまじく、見事一等賞となり、賞金を獲得しました。


作男は今にもはちきれそうな腹をかかえ、やっとの思いで家に帰ると、あの不思議な草を取り出したのです。


「これさえあれば大丈夫。」作男はその草を大量に飲み込むと寝てしまいました。


次の日の朝、作男の寝床はもぬけの殻*4で、着物と草が残っているだけでした。


斎藤家の人は、その草を粉にして少しずつ飲んでみると、食べ過ぎにすぐに効くので、家伝の秘薬*5とし、やがて「食傷丸」として売り出されたと言うことです。



*1 家伝薬
その家に先祖代々伝わっている薬。
*2 行き倒れ
病気・疲れ・飢え・寒さなどで道端に倒れること。または、倒れて死ぬこと。
*3 作男
雇われて田畑の耕作をする人。
*4 もぬけの殻
脱皮した皮。人の逃げ去ったあとの家、または寝床などのたとえ。魂の抜け去った身体・なきがら。
*5 秘薬
製法が秘密にされている薬。不思議なほどよくきく薬。


参考資料
「那珂の伝説」〈下〉(大録義行編)
「那珂町史」(那珂町)

 

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