ウルチがモチに(水戸市)
ある年のこと、村中が田植えの準備に大忙しのとき、男は自分の田んぼに植える苗を作っておりませんでした。
ところが、男はある晩、よその家の苗をこっそり失敬してきて自分の家の田植えを済ませてしまったのです。
明くる朝、用意しておいた苗を全部盗まれた家では大騒ぎとなりました。
そこで、苗を作った様子がまったくないのに、いつの間にか田植えを済ませたあの怠け者があやしいと役人に訴え、領主のお裁きを受けることになったのです。
でも、役所に呼び出された男は絶対盗んでないと言い張る上に、これといった証拠もないので、領主*1も困ってしまいました。
「ところで、お前の植えた苗の種類は何じゃ。」
「はい、モチ*2でございます。」
「では、盗まれたお前の家の苗は。」
「はい、ウルチ*3でございます。」
「それでは、秋まで待とう。稲の穂が出ればわかること。裁きはそれからじゃ。」
男は、領主の前でとっさにモチと答えたものの、盗んだ苗ですから本当のところはわからなかったのです。
稲が実れば、うそがばれて牢屋*4に入れられる・・・・・男はしばらく悩んだ末に、人目につかないよう朝早く起きて、愛宕神社参りを始めました。
愛宕山の天狗に出来ないことはないというある旅の修験者*5の話を思い出したからです。
「お願いです。どうかあの苗からモチの穂が出ますように。」
男は毎日毎日必死で祈り続けました。
秋になり、いよいよお裁きの日。領主が刈り取られた稲穂を手にとって確かめると、それはモチでした。
でも、何ヵ月も苦しみ、祈り続けて、やっと解放されたというのに男の心はちっとも晴れなかったのです。
その日から、怠け者の男は心を入れかえて真面目に働きだしました。
そして、愛宕神社へのお参りも欠かさず続け、一生懸命貯めたお金で参道*6に石段を奉納したということです。
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参考資料
- 「いわまの伝え話」(岩間町教育委員会)
「内原町史 民俗編」(内原町史編さん委員会編)