明礬を買いに(那珂市)

むかし、額田村(那珂市額田)のたっつぁい*1は、家の奉公人の一人に買物をいいつけました。
「太田(常陸太田市)の薬屋に行って、明礬*2を買って来ておくれ。」と頼むと、奉公人は「旦那様、みょうばんというのはどんなものですか。何に使うのですか。」と聞き返すのです。
たっつぁいは、忙しかったので、「店に行って、明礬くださいといえば解るから、とにかく急いで行って来ておくれ。」と、お金を渡しました。
奉公人は、明礬がどんなものかわからないまま太田に向かいましたが、途中で頼まれた品物の名前を忘れてはたいへんと思い、「みょうばん、みょうばん。」と声に出しながら歩いて行きました。
そして、磯部(常陸太田市磯部町)の手前までやって来ると、小さな川がありました。奉公人は手前から勢いをつけて、「どっこいしょ!」と川を飛び越えたのですが、その拍子に品物の名前が頭からすっかり消えてしまったのです。
「えーと、旦那様に頼まれたものは・・・・・確か名前のうしろは“ばん”だったな。□□ばん。○○ばん。××ばん。…」と、道すがらなんとか思い出そうとしたのですが、とうとう名前が出てきませんでした。
奉公人は薬屋に着くと、やむなく当てずっぽう*3で、「“こんばん”ちゅうのを売ってください。」といいました。すると、薬屋の番頭*4さんは、不思議そうな顔をし、「こんばん? うちじゃそんな薬は扱っておりませんよ。」というのです。奉公人は仕方なく、手ぶらで戻ることになってしまいました。
「旦那様、薬屋の番頭さんが無いといって売ってくれませんでした。」
「無い? そんなはずはない。お前は何をくれといって買いにいったんだい。」
「こんばんちゅうのを売ってくれといったんです。」
「こんばんじゃなくて明礬、私はお前に明礬を買ってきてくれといっただろう。」と、たっつぁいが呆れていうと、「薬屋の番頭さんも不親切だなぁ。今晩と明晩、たった一晩違いなら売ってくれてもよかっただろうに。」と答えたのだそうです。
「太田(常陸太田市)の薬屋に行って、明礬*2を買って来ておくれ。」と頼むと、奉公人は「旦那様、みょうばんというのはどんなものですか。何に使うのですか。」と聞き返すのです。
たっつぁいは、忙しかったので、「店に行って、明礬くださいといえば解るから、とにかく急いで行って来ておくれ。」と、お金を渡しました。
奉公人は、明礬がどんなものかわからないまま太田に向かいましたが、途中で頼まれた品物の名前を忘れてはたいへんと思い、「みょうばん、みょうばん。」と声に出しながら歩いて行きました。
そして、磯部(常陸太田市磯部町)の手前までやって来ると、小さな川がありました。奉公人は手前から勢いをつけて、「どっこいしょ!」と川を飛び越えたのですが、その拍子に品物の名前が頭からすっかり消えてしまったのです。
「えーと、旦那様に頼まれたものは・・・・・確か名前のうしろは“ばん”だったな。□□ばん。○○ばん。××ばん。…」と、道すがらなんとか思い出そうとしたのですが、とうとう名前が出てきませんでした。
奉公人は薬屋に着くと、やむなく当てずっぽう*3で、「“こんばん”ちゅうのを売ってください。」といいました。すると、薬屋の番頭*4さんは、不思議そうな顔をし、「こんばん? うちじゃそんな薬は扱っておりませんよ。」というのです。奉公人は仕方なく、手ぶらで戻ることになってしまいました。
「旦那様、薬屋の番頭さんが無いといって売ってくれませんでした。」
「無い? そんなはずはない。お前は何をくれといって買いにいったんだい。」
「こんばんちゅうのを売ってくれといったんです。」
「こんばんじゃなくて明礬、私はお前に明礬を買ってきてくれといっただろう。」と、たっつぁいが呆れていうと、「薬屋の番頭さんも不親切だなぁ。今晩と明晩、たった一晩違いなら売ってくれてもよかっただろうに。」と答えたのだそうです。
- *1 たっつぁい
- 「ちくぬき」(うそ・ほらふき)の名人として、たくさんの話が残っている。名主(村の長)の家柄ともいう。
- *2 明礬
- 硫酸アルミニウムとアルカリ金属・アンモニウム・タリウムなどの硫酸塩の化合物。無色の正八面体結晶。水に良く溶け、水溶液は弱酸性。媒染剤・収斂剤・製紙・製革などに使われる。
- *3 当てずっぽう
- いいかげんな推量で事を行う・こと(さま)。
- *4 番頭
- 商店・旅館などの雇い人の頭で、店の万事を預かる者。昔の商家では、手代の上の地位。
参考資料- 「常陸のたっつぁい噺 続」
那珂町額田の民話 (大録義行編)