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香起上人(ひたちなか市)

ひたちなか市稲田に、東聖寺という真言宗のお寺があります。むかし、この寺に香起上人というお坊さんがおりました。

水戸藩の殿様の奥方が難産*1で苦しんでいたときのことです。

お城では、御典医*2があらゆる手を尽くし、名のある祈祷*3師も集められましたが、それでもお子が生まれず皆途方に暮れておりました。

そこへ上人が出かけて行き、「奥方のお部屋の唐紙*4越しで結構ですから、私に安産の祈祷をさせてください。」と願い出たのです。

そして、上人が祈祷を始めるとすぐに無事お子がお生まれになりました。

喜んだ殿様はお礼として、上人一代に限り葵のご紋を袈裟*5の肩に使用することをお許しになったのだそうです。

また、ひどい日照りが続き村人が困っていたとき、上人は高場のボウダ溜で雨乞いの祈祷をして雨を降らせ、村を救ったとも言われています。

さらに、上人ゆかりの面白い話をもうひとつ。

欲深で知られたお婆さんが亡くなったときのこと、上人のもとに「火車」という化け猫があらわれ、「あんな強突張り*6の婆さんのために、とむらい*7なんか出してやることはない。葬式のとき、見せしめのために婆さんの死骸を盗んでやる。」と言って消えたのです。

上人は、いくらお婆さんが生前欲深でまわりの人に嫌がられたとしても、それはかわいそうと思いました。

そこで上人は、葬式の日にあらわれた猫に酒を飲ませて眠らせ、そのすきに、無事葬式を済ませたということです。

また、このとき上人がほうきで猫を追い払ったという話も伝えられています。

*1 難産

出産の時、胎児がなかなか生まれないこと。
*2 御典医(御殿医)
江戸時代、幕府・大名お抱えの医者。
*3 祈祷
成就を願い、一定の作法に従って神仏に祈ること。
*4 唐紙
ふすま。唐紙をはった障子。
*5 袈裟
僧衣の一つで左肩から右わきの下にかけて衣の上を覆う布。
*6 強突張り
ひどく欲張りでがんこなこと(人)。
*7 とむらい
人の死を悲しみ悼むこと。葬式。

参考資料

  • 「勝田市史 民俗編」(旧勝田市)

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