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駒渡(茨城町)

 東茨城郡茨城町の北東部、涸沼川の左岸に「駒渡」というところがあります。むかし、涸沼川の両岸が現在のような広大な水田地帯ではなく、一面にアシや雑草が生い茂る原っぱだった頃のことです。

 ある日、そこへどこからともなく真っ白い馬がやって来て住みついたのです。

 その白馬のうわさは、またたく間に村中に広まりました。というのも、その姿があまりにも神々しく*1、近寄りがたいほど輝いていたからです。

 「あんな美しい馬は、今まで見たことがない。」 

 「きっと神様がお遣わしになった神馬*2に違いない。もったいないことじゃ。」  村人たちは、この白馬をあがめ、神社を建てて大切にまつりました。

 それ以来、このあたりを駒(馬)が渡って来た所なので駒渡、神社は神馬をご神体としたことから駒形神社と名付けられたといわれます。

 ある時、この神社に泥棒に入り、お賽銭*3をはじめ、ご神体である神馬の像までも盗み出そうとした不届き者がおりました。

 ところが、高さ一尺五寸(約四十五センチメートル)ほどの木彫の像を持ち出そうとしても、びくともしないのです。泥棒が力まかせに足を引っ張ると、ポキリと折れてしまいました。

 これには泥棒もびっくり。神罰*4が下ると思ったのか、何も取らずにあわてて逃げ去りました。現在も神馬の片足が折れているのは、この時に折られたからだと伝えられています。

 
 また、この地では、駒形神社のご神体が白馬であることから、白いものを汚すことを避け、白馬はもちろんのこと、ニワトリやウサギにいたるまで白い動物は一切飼わなかったと伝えられています。この禁忌は昭和二十年代まで行われていたそうです。

*1 神々しい(こうごうしい)

気高く荘厳な感じ。
*2 神馬(しんめ)
神社に奉納する馬。
*3 賽銭
参詣に際して神仏に供える金銭。
*4 神罰(しんばつ)
神が下す罰。
*5 禁忌(きんき)
日時・方位・行為・言葉などについて、さわりあるもの、忌むべきものとして禁ずること。また、そのもの。タブー。

参考資料

「茨城町史 地誌編」(茨城町史編さん委員会)

  • 「茨城の伝説」(今瀬文也・武田静澄共著)

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