SERIES連載記事

お宝の夢(那珂市)

むかし、杉(現在の那珂市杉)地内の御案内というところに貧しい夫婦が住んでおりました。

あるとき亭主*1は、南の山にある大木の根もとにお金の詰まった壺が埋めてあるという夢を三晩も続けて見たのです。

(それにしても続けておかしな夢を見たものだ。貧乏暮らしで俺の体もまいってきているのかな。) ずっとお金に縁のない暮らしをしていた亭主は、そんなことあるわけがないと全く気にもかけずにおりました。

ところが、しばらくして女房*2も同じ夢を見たというのです。

「おまえさん、これは正夢*3かもしれないよ。だまされたと思ってその木の根もとを掘ってごらんよ。」 
そう女房にいわれた亭主は、しぶしぶその木の根もとを掘ってみると、何と夢で見た通りに壺が出てきたではありませんか。

喜んだ亭主が壺のふたを開けると、中にはまっ赤に錆びて使いものにならないような銭*4がぎっしり詰まっていたのです。
「何だ、ばかばかしい。びた銭*5ばかりじゃないか。金銀小判かと思ったが、大違いだ。」
亭主は腹を立て、壺の中の銭をまき散らして家に帰りました。

それからしばらくして、この話を聞いた隣の亭主がその場所へ行ってみると、聞いていた話とはまるで様子が違っておりました。

大木の根もとあたりが日の光を浴びて光っているのです。近づいてみると、前日の強い雨に洗われてすっかりきれいになった銅の穴あき銭がキラキラと輝いていたのです。

隣の亭主は、その一つひとつをていねいに拾い集め、壺に入れて家に持ち帰りました。そのおかげで一生、何不自由なく暮らせたということです。

*1 亭主
一家の主人。夫。
*2 女房
妻。内儀。
*3 正夢
夢に見たとおりのことが現実となる夢。
*4 銭
金属製の円形で中央に穴のある貨幣。江戸時代、金(大判・小判)・銀(丁銀・豆板など)に対して、銅・鉄で作られた貨幣を銭といった。
*5 びた銭(鐚銭)
粗悪な銭。室町時代から江戸初期にかけて、永楽銭以外の銭。また、一文銭の寛永鉄銭の称。
 
参考資料
「那珂の伝説 上」(大録義行編)

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