SERIES連載記事

爪書き阿弥陀(石岡市)

 JR常磐線の高浜駅から東方に数百メートルほど行くと、高浜中央三差路近くに、親鸞聖人*1ゆかりの「爪書き阿弥陀堂*2」(石岡市高浜)があります。

親鸞聖人が稲田(現在の笠間市)に草庵を結び、約二十年間、常陸国の各地を歩いて新仏教の布教につとめていた頃のことです。
聖人は稲田の庵を出て鹿島へ向かう途中、高浜の里を通りかかりました。

その時、腫れ物*3に苦しんでいる男の話を耳にした聖人は気の毒に思い、男の家を訪ね、「私がその苦しみを取り除いてあげましょう。」と声をかけました。

ところが、男は苦痛に顔をゆがめながら、「お前みたいな坊主に治せるわけがない。放っておいてくれ。」と全く聞き入れようとしないのです。それでも聖人は静かに念仏*4を唱えながら、男の身体をなではじめました。

すると、不思議なことに痛みはうそのように去り、やがて腫れ物もすっかり消えてしまったのです。
驚いた男は、無礼を心から詫び、小麦の焼き餅を出して聖人にすすめました。

そして、霞ヶ浦をわたり鹿島へ向かう聖人を船着場まで見送った男は、「お かげで現在の苦しみから解放されました。この上は、聖人様のお力で未来の苦しみも取り除いてください。」と衣の袖にすがってお願いしたのです。

聖人は、「極楽往生*5を願うなら、念仏を唱えることです。あなたの家の庭にある石には阿弥陀如来が宿っているから、それを信心しなさい。」と言って舟に乗ってしまいました。

男が家に帰ってみると、庭石に阿弥陀如来のお姿が刻まれておりました。男は、そこにお堂を建ててまつり、聖人の弟子となったということです。

この如来像は、親鸞聖人が爪で描いたものだと言い伝えられ、「爪書き阿弥陀」、「爪描き如来」と呼ばれるようになりました。それ以来、腫れ物を治してくれると評判になり、この像に小麦の焼き餅をお供えしてお参りをする人が多かったのだそうです。

 

*1 親鸞
鎌倉初期の僧。浄土真宗の開祖。
*2 阿弥陀堂
阿弥陀如来を安置したお堂。阿弥陀如来は浄土宗・浄土真宗などの本尊。西方にある極楽世界を主宰するという仏。
*3 腫れ物
炎症により皮膚の一部が腫れたもの。膿をもつ。できもの。
*4 念仏
心に仏の姿や功徳を観じ、口に仏名を唱えること。
*5 極楽往生
この世を去って極楽に生まれること。
 
参考資料
「石岡市史 上巻」(石岡市)
「石岡の寺とみほとけ」(石岡ライオンズクラブ)
「石岡市の昔ばなし」(仲田安夫著)
「茨城の史跡と伝説」(茨城新聞社)
「茨城県の歴史散歩」(茨城県歴史散歩研究会)

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