大黒様(水戸市)
夕暮れどきでしたので、話を終えると、お坊さんは村人たちに一夜の宿をお願いしました。ところが、みんな口々に都合のいい言い訳をいって、その場から立ち去って行きました。
お坊さんが途方にくれてとぼとぼと歩き出すと、一人のお爺さんが「お坊さま、あばら屋*3でよかったら、うちに泊まってください。」と声をかけたのです。
身なりは見るからに貧しそうでしたが、お坊さんは「それはありがたい。」と喜んでお爺さんの後についていきました。その晩はお婆さんがつくった温かい芋粥をごちそうになり、わらぶとんで休ませてもらいました。
明くる朝、お坊さんは、二人の前で重たそうな風呂敷包みを開けると、中から大黒様*4を取り出しました。そして、「この大黒様は、昨晩お世話になったお礼じゃ。毎晩、大黒様の口から家の人が食べる分だけのお米が出るから、口の下に枡*5を置いて、毎朝水を供えるがよい。」というのです。
二人はそのようなものをいただくわけにはいかないと申し上げたのですが、「あなた方のように心のきれいな人には必ずよい巡り合わせがあるものじゃ。人というものは他人の恩を決して忘れてはならないのじゃ。」といって、お坊さんは大黒様を置いて旅立って行きました。
二人は台所に棚をつくって大黒様をおまつりしました。その晩、お婆さんが半信半疑で枡の中をのぞきこむと、本当に二人分のお米が入っていたのです。「ありがたいことじゃ。」と二人は大黒様に手を合わせて拝みました。
それから何年かして、お爺さんが亡くなりました。すると、その晩からお米はお婆さんの分だけしか出なくなったのです。お婆さんは今まで通り二人分のお米を出してもらおうと欲を出し、大黒様の口をけずってしまいました。ところが、その晩からお米は一粒も出なくなってしまったのだそうです。
これは水戸市島田町に伝わるお話ですが、県内には他の地域にも同じような伝え話が残っているようです。
- 参考資料
- 「常澄村の伝説とむかし話」(水戸市教育委員会)
「茨城のむかし話」(茨城民俗学会編)