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十の字むじな(土浦市)

むかし、神立(土浦市)のあるお寺にドジョウ*1が大好物というお坊さんがおりました。

そのころ、お坊さんは肉や魚を食べないのが当たり前でした。
そこで、このお坊さんは、「生臭坊主」*2といわれぬよう、ドジョウをこっそり食べる方法を思いついたのです。まず、水を入れた鍋を火に掛け、熱くならないうちに豆腐とドジョウを入れます。やがて鍋の水が熱くなると、苦しくなったドジョウが豆腐の中にもぐり込んでしまいます。こうして、お坊さんは夜な夜な誰にも知られず、アツアツのドジョウ入り湯豆腐を楽しんでおりました。

ところが、寺の裏山に棲むいたずら好きのむじな*3が、この秘密をかぎつけてしまったのです。このむじなは、眉と鼻筋の毛が白く、遠くから見ると十の字に見えたことから「十の字むじな」と呼ばれていました。十の字むじなもドジョウが大の好物でしたので、毎晩やって来ては「ドジョウを食べさせてくれ!」と尻尾で戸をドンドン、ドンドンと叩くのです。これにはお坊さんも参ってしまい、あるはかりごとを思いつきました。

冷えこみのきびしいある晩のこと、お坊さんは、外にいるむじなに聞こえるように独り言をいいました。「こんな寒い夜は湯豆腐で暖まるのが一番なのに、金堀の池からドジョウを獲ってくるのを忘れてしまったな。十の字むじなならフサフサの尻尾を池に浸けて待てばドジョウがもぐり込んでたくさん獲れるだろうになぁ。でも、そんなことを知られたらドジョウは十の字むじなにみんな獲られてしまうわい。」

これを聞いたむじなは、さっそく池に行って大きな尻尾を水に浸けてじっと待っていましたが、ドジョウはさっぱり寄りつきません。やがて、寒さが増すにつれて池に氷が張りつめ、むじなの尻尾は抜けなくなってしまったのです。
明くる朝、お坊さんが池のほとりに行くと、むじなが「お坊さま、もういたずらはしませんから、どうか助けてください。」と訴えるのです。

お坊さんは「いたずらが過ぎるから罰が当たったのじゃよ。心を入れかえてもういたずらはしないと誓えば、仏さまが助けてくれるだろう。」というと、さっさと立ち去ってしまいました。
日が昇ると徐々に池の氷が解け、やっとのことで解放されたむじなは、それからどこへ行ってしまったのか、二度と神立の里に現れることはなかったということです。

 

 

 

 

*1 ドジョウ
ドジョウ科の淡水魚の総称またはその一種。全長約15センチメートル。体はぬるぬるして細長く、円筒形で口ひげが5対ある。田や池などの泥中にすむ。柳川鍋などにして食べる。
*2 生臭坊主
品行のよくない、俗臭のある僧を卑しめていう。魚・鳥獣の肉料理を食べるなど戒律を守らない僧。
*3 むじな(狢)
アナグマの異称。毛の色がアナグマに似ているところから、混同してタヌキをそう呼ぶこともある。

参考資料

「土浦町内ものがたり」(本堂 清著)
「土浦のむかし話」第一集(土浦文化財愛護の会編)
 

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